2008年06月29日

第四話 運命へのほんのささいな反逆

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「南十時が輝いていた。
 意識的なものでしょうか、無意識のことでしょうか。無意識だとしたら、なお悪い」

 ジルリルジルリル。

 鳴き声に気が付けば、瘤鼠に囲まれている。
 おおかた、先ほどの夜を本物だと勘違いでもして月片花の蜜を吸いに来たのだろう。瘤鼠は夜行性で好戦的。夜ではないのに起こされた苛立ちが、私に向いている。
 一匹が私めがけて飛び込んでくる。瘤鼠の脚力から繰り出される助走と跳躍による体当たりは一瞬で着弾する。瘤もあいまって、思い切りモーニングスターで殴られたときのような痛み。
 一匹が跳べば、みな跳ぶ。次々と的に向かってぶつかってくる瘤鼠たち。防御しようと構えても、別方向から絶え間なくやってくる。
 当たり所が悪かったのか、数多の一撃によって下半身の踏ん張りが利かなくなった。それを見越したように、後頭部に強い衝撃が奔る。花の中に斃れた。

 横倒しになった視界の中に石版を見ている。
 石版は、神威法によって瘤鼠を掃討せよと指示している。

 従いたくなかった。斃れてもなお攻撃の手を休めない瘤鼠によって私は意識を失いかけている。タイミングさえ合えば、死はとてもあっけなくやってくる。死に神はどんな顔をして私に手を差し伸べるのだろう。興味が湧いた。
posted by clown-crown at 01:49| パリ ☁ | TrackBack(0) | 石盤(タブレット) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年06月04日

第三話 夜を引き連れた魔女

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 無造作に月片花を踏みしだく音が聞こえる。夜が訪れていた。
「恋人のことを想っていたのね」
 魔女が囁く。私は肯定も否定もしない。益体のない、感傷的な、夢想を、誰かに伝えようとは思わない。
「夜なのに、忍び寄ることができないのよね」
 まるで、私に気づかれずに近づきたかったかのような苦悩と諦念を浮かべた声音だった。今更だろうに。
「治癒者は、自分自身だけは癒せないのね」
 馬鹿にされているのかと思った。その言葉に含まれるのはそんな単純な意味だと思いたかった。
「誰なら貴方を癒せるのかしら」
 我慢ができなかった。
「邪魔です」
 息を呑む、そんな音が聞こえたのは罪悪感ゆえの幻聴なのだろう。
「ごめんなさい。でも、スカルが呼んでいるわ。あまり思い悩んではダメよ。貴方のためにも」
 魔女は去っていった。同時に、青空が戻ってくる。そこに夢想のラーラはいなかった。
 彼女に呼び名はない。だから私は、レミファラーラと呼ぶことにした。姿形も言動もラーラには似ていないが、唯一、声だけは似ている。
 レミファラーラと話をするのは辛い。

posted by clown-crown at 01:14| パリ | Comment(0) | TrackBack(0) | 石盤(タブレット) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年12月04日

第二話 判断文による擬似繰り返し文

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 もし、ここにラーラがいたら。
 この花の中を飛び跳ねながら舞い踊っているだろう。

 もし、ここにラーラがいたら。
 私はラーラを抱きしめて決して離さないだろう。

 もし、ここにラーラはいたら。
 それを思うと私はナイフで自分の心臓を抉り出したくなる。

 もし、ここにラーラがいたら。
 その小さな身体をめいっぱいにのばして、ぴょんぴょんと駆け巡る。
 ここにある、どの花よりもきれいな笑顔を咲かせながら。
 自由に走り回っていながら、花を踏むことはない。
 遊び疲れたころ、私の元に駆け寄ってきて、キスをする。



 自分の唇に触れてみる。
 カサカサとささくれている。

 もし、ここにラーラがいたら……。

posted by clown-crown at 00:43| パリ ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 石盤(タブレット) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年02月04日

第一話 独り言から始める創世

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 仄暗い部屋がある。
 部屋は大きくないし、小さくもない。ベッドとデスクとチェアとドレッサーと、その他こまごまとしたいくつかの家具が雑然と置かれていて、クローゼットもついている。デスクの上にはパーソナルコンピュータが鎮座し、その周辺にはコンピュータとコードで結ばれたいくつかの機材がデスクからはみ出しつつ配置されている。人の動き回ることのできるスペースは少し足りないようだが、独りになるための部屋としてはこの閉塞感も申し分ない。西の窓にブラインドがかけられていて、赤い微光が漏れ出している。

 ガチャリ、と音がした。
 ノブを回す手は、すぐさま光をさえぎるための“ひさし”と変わる。その姿はわずかばかりに漏れ出す光に苦手というより嫌悪といった風で、その手はわなないている。おかしな点は、その“ひさし”が眼球を守っているのではないことだった。部屋に入る前から、目にはサングラスがかけられていたかので目を覆わない理由はすぐにわかるが、首を守る道理はそう簡単に考え至らない。まるで、光を浴びれば首が腐り落ちてしまうとでも言いそうな雰囲気である。
 手で首を隠した男、ジェイル・ロウは窓に駆け寄り、ブラインドの角度を垂直に調整する。

 暗澹。

「Let there be light」(光あれ)
 ジェイル・ロウがそう呟くと、デスクの上に置かれたディスプレイが風きり音のような音と共に発光し、コンピュータが駆動音を唸らせる。
 わずかな光がジェイル・ロウの相貌を照らす。
 そこには包帯で表情を奪われた、さながらミイラ男の顔があった。
 重機を引きずるような低音で、ジェイル・ロウはマシンに指図する。
「Application software “hexaemeron” run」(アプリケーションソフト『天地創造』、起動)
 音声入力に対応したコンピュータは、ディスプレイにウィンドウを表示させる。
 黒の背景に、金の装飾文字をした英語で『天地創造』。その右下には同じ書体で『ソフトウェア開発者 ジェイル・ロウ』とある。
 ジェイル・ロウはデスクの上に置かれたプロジェクタの電源を入れた。ディスプレイと同じ画面が部屋の壁に映し出される。ジェイル・ロウは椅子の背凭れに顎を乗せるようにして座り、映し出された壁を見据えた。

「Shortcut」(ショートカット)
 続けざまに「Load the “Distorted cube”」(『歪曲六面体』のセーブデータををロード)
 そして、「Input method remote-control gadget」(入力方式をコントローラに変更)
 画面はジェイル・ロウの指示通りに目まぐるしく変わり──。



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舞台裏
posted by clown-crown at 19:45| パリ ☁| Comment(7) | TrackBack(0) | 石盤(タブレット) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする