2007年06月04日

第三話 夜を引き連れた魔女

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 無造作に月片花を踏みしだく音が聞こえる。夜が訪れていた。
「恋人のことを想っていたのね」
 魔女が囁く。私は肯定も否定もしない。益体のない、感傷的な、夢想を、誰かに伝えようとは思わない。
「夜なのに、忍び寄ることができないのよね」
 まるで、私に気づかれずに近づきたかったかのような苦悩と諦念を浮かべた声音だった。今更だろうに。
「治癒者は、自分自身だけは癒せないのね」
 馬鹿にされているのかと思った。その言葉に含まれるのはそんな単純な意味だと思いたかった。
「誰なら貴方を癒せるのかしら」
 我慢ができなかった。
「邪魔です」
 息を呑む、そんな音が聞こえたのは罪悪感ゆえの幻聴なのだろう。
「ごめんなさい。でも、スカルが呼んでいるわ。あまり思い悩んではダメよ。貴方のためにも」
 魔女は去っていった。同時に、青空が戻ってくる。そこに夢想のラーラはいなかった。
 彼女に呼び名はない。だから私は、レミファラーラと呼ぶことにした。姿形も言動もラーラには似ていないが、唯一、声だけは似ている。
 レミファラーラと話をするのは辛い。

posted by clown-crown at 01:14| パリ | Comment(0) | TrackBack(0) | 石盤(タブレット) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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